イアンは僕等と同じくバックパッカーだった。南アフリカから旅を始め、モザンビーク、ジンバブエ、ザンビア、マラウイ、タンザニア、ブルンジ、ルワンダ、ウガンダ、ケニアと廻ってエチオピアまでやってきたのだそうだ。またアフリカの旅を始める前は南欧で料理人をやっていたとのことで、母国を離れてからかなりの年月が経っているようだった。年齢は20代だが、きっとこれまでいろんな事を経験してきたのだろう、見た目はかなり大人びている。
僕とR輔クンがこのイアンと知り合うことになったのは、いわゆる『自称ガイド君』のおかげだった。バハルダールはエチオピアのなかでも有数の観光地であり、青ナイルの源流を見てみたいと考える多くの外国人が訪れる。だからそういう観光客を相手に多様なサーヴィスを提供して収入を得ようとする人間がいるのだが、その自称ガイド君(以下、ガイド君。)も、そのなかのひとりであった。
僕とR輔クンは最初、その青年のことをただの客引きだと考えていた。僕等はゴンダールからの移動でバハルダールのバスターミナルに到着したときに初めて彼から声をかけられ、宿まで案内してもらうことになった。本当は自分達で宿を見つけるつもりだったのだが、あんまりしつこかったので根負けしてしまい、彼に宿を紹介してもらうことになったのである。でも、彼のしつこさはそれからが真骨頂だった。宿に部屋を取ったあとでもそのガイドはたびたび僕等の部屋に押しかけてきては
「洗濯物はたまってないか?あるなら安くやってあげるよ。」
とか
「ボート・トリップをやらないか?」
などと言うのであった。ようするに彼は僕等が滞在することにした宿の従業員などではなくて、ただ旅行者にまとわりについていろいろなことを斡旋するかわりにマージンを手に入れようとする、地元の若い男にすぎなかったのである。まあそれはともかくとして、彼が提案してきたそのボート・トリップというのは、説明を聞いてみたところ、なかなか面白そうだった。内容はボートで島に渡って修道院を見学する、ただそれだけのことなのだけれど、エチオピアのキリスト教は欧米のそれとは違って独自の発展を遂げているので、僕としてはその違いを確認してみたかったし、またボートに乗っているときは湖を泳ぐカバやワニを見ることができるらしく、そっちのほうにも興味が湧いた。
ところがいざそのガイド君と料金の交渉をしてみると、これがけっこう高いことがわかった。R輔クンも一緒に行くことに同意したので料金は二人で折半なのだが、それでもまだ高かった。それで実際にそのボート・トリップをやるかどうか迷っていたら、そのガイド君が「獲物に逃げられたら困る」と、思ったかどうかわからないけど
「この宿に他にもボート・トリップに興味を示している白人が泊まっているから、その人とシェアすればいいよ。」
と、言ったのだった。それでその白人というのがイアンだったのである。
そういうわけで僕等は紹介されたイアンと話し合いをして、ボートのチャーター料金をシェアして日帰りのボート・トリップをすることになったのだが、ここでひとつガイド君から注意されたことがあった。僕等がボートで目指すことになったクブラン・ガブリエル島には、そこへの訪問に関してひとつの重要な決まりごとがあり、それはどんなことかというと
「女性を連れて行くことは許されない」
というのである。クブラン・ガブリエルは完全な「女人禁制の島」となっていて、地元の人間であろうが外国人であろうが、とにかく女性は入れないことになっているのだそうだ。僕等は女性を連れて旅しているわけではなかったし、イアンも一人旅だったから、そのガイド君が注意したことをあまり真剣に聞いていなかったのだが、でもそれがウソではないことを僕等は島の船着場で知ることになった。ボートを降りて島に上陸したときに
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