僕が頭を悩ませていること、それは「歯痛」であった。原因は全くわからないが奥歯がズキズキ痛むのだ。その歯痛のせいで特に困るのが食事のときだった。この旅では魚よりも肉を食べる機会が断然多く、おまけにアフリカの肉というのがこれまたどういうわけか異常に硬くて、噛み切るときは奥歯の痛みで失神するんじゃないかと思うぐらいである。
ちなみにこの歯痛は今に始まったことではない。最初に歯が痛み出したのは確かケニアにいた頃である。でもその当時の僕はこれをそれほど深刻なものとは捉えなかった。確かに痛いことは痛いけれども、丁寧に歯磨きを続けていればそのうち自然に治るだろうと、軽く考えていたのだ。しかし現実にはそうはならなかった。ケニアからウガンダ、ルワンダ、タンザニアと旅を続けてきても、事態はいっこうに好転しない。好転するどころか最近では悪化しているような気さえする。
それで僕はタボラに滞在しているときに、例のマイゲさんに自分の歯痛について相談してみた。彼はアフリカでは珍しいくらいの高等教育を受けた人物だったし、アフリカで患った病気はやはりアフリカ人に相談するのが一番だろうと思ったからだ。そしてマイゲさんに歯痛を相談したところ彼は
「病院に行ったほうがいい」
と、実に的確なアドヴァイスを僕に与えてくれた。ただあまりに的確すぎて僕には
「それはそうだけど・・・。」
としか答えることしかできなかったけど。
マイゲさんは歯が痛いのなら歯医者へ行けばいいと、僕に勧めた。もちろんそれが一番だってことは僕にもよくわかっている。でもそれをしたくないから、僕はわざわざマイゲさんに相談したのである。ちなみに僕が歯医者に行きたくないのは、当然のことながら(こんなふうに強調するのも情けないが)、やはり費用の問題からだった。
僕は今回の旅のために、あらかじめ日本で海外旅行保険に加入してきた。しかし長期の海外旅行保険に加入した経験を持っている人間なら知っていることだが、残念ながら虫歯の治療に海外旅行保険は適用されない。だからもし歯医者へ行ったら僕は費用を自分で負担することになる。
しかしながらアフリカ縦断の旅はまだ半分くらいしか進んでいない。この旅ですれ違ったバックパッカーによれば、アフリカの物価は南下すればするほどに上がっていくという。それを考えると今のところは旅の資金をあまり切り崩したくはない。だからできることなら病院には行かずに歯痛を治したいのだ。そう僕がマイゲさんに言うと
「もし病院に行くのが嫌なのなら、『ムガンガ』のところに行きなさい。」
と、僕に答えた。
僕がムガンガという言葉を聞いたのは、そのときが初めてだった。
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