ニルマル・ヒルダイで働き始めてから、もう二週間が過ぎた。最初は驚きと緊張の連続だった僕も、今ではさすがに施設にも仕事にも慣れることができるようになった。洗濯のせいでボロボロになってしまった両手もすぐに回復し、今では100人分の衣類を洗濯しても全く問題ないくらいに両手の皮膚も強くなったと思う。もっともこんなに速く回復できたのは、僕の自然治癒力のためではなく、セバスチャンのおかげなのだが。
セバスチャンは僕やキムと同じドミトリーに滞在しているドイツ人男性だ。彼もマザーハウスでボランティアをしているのだが、彼は僕等とは違って「障害者の家」という別の施設で働いている。彼は僕等にマザーハウスの本部の場所やボランティアの登録手続きについて教えてくれたり、滞在している宿がある「サダルストリート」周辺を案内してくれたりと、僕等にとってはとても面倒見の良い親切な男である。
ニルマル・ヒルダイでの初日の夜にも、僕がドミトリーで皮膚が剥けてしまった両手を見せると、
「毎日何回かこれを塗っていれば、数日で良くなるよ。」
と言って、ドイツ製の軟膏を僕にくれたのだった。そしてそのとうりにしていると、あんなに酷かった両手の痛みがウソの様に和らいだのだ。そして両手が完全に直ったときには
「これで思いっきり洗濯できるな。」
と、思ってセバスチャンの親切に感謝していたのである。で、それから二週間経過した今僕が、当初の期待どうりに「思いっきり洗濯」しているのかというと、実はそんなことはなかった。僕は洗濯ではなく、別の仕事をメインにこなすようになっていたのである。
では僕はどんな内容の仕事をしているのかというと、それは患者の「介護」というのが、適当な表現だと思う。僕が働いている施設には約50人の男性患者がいるのだが、彼等の容態は皆全く同じというわけではなく、それぞれが微妙に違っている。「死を待つ人の家」という施設の通称からも想像できるように、ここにいるのは重症の病人がほとんどなのだが、そういった重症の患者を「最も酷い重症患者」と、彼等と較べると「まだマシな重症患者」の二つに区別することができる。「まだマシな重症患者」という表現が正しいのかどうか自分でも疑問なのだが、それ以外に上手い説明が思いつかない。
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