「ガイドブックも持たずに海外旅行をしてるんですか?」
その日本人女性から質問されたとき、僕はまるで自分が彼女に対して何かとんでもない迷惑をかけているかのような錯覚に陥った。なぜなら彼女の言い方が質問というよりは「批難する」といったような口調であり、また表情については「いったいこの男はどういうつもりなのかしら?」という不審な様子をあからさまに顔に出していたからである。
そして彼女のそんな質問に対して最初は、「ガイドブックを所持していないわけではなく、所持してはいるけれども、訳あって彼女の持つガイドブックを見せてもらいたかった。」その理由を説明しようとしたのだが、やはり思い直してガイドブックを彼女に返し
「どうもありがとうございました」
ただそう言い残すと、僕は足早に観光案内所を立ち去ったのだった。
スロヴェニアからイタリアへと入国した僕はトリエステという街を経由し、その日のうちに列車でヴェネチアへとやってきた。イタリアで最初に滞在する街にヴェネチアを選んだことに、特別な理由はない。駅へ行って切符を買おうとしたときに、次に来る列車に乗ったらいったいどこまで遠くに行けるのだろうかと調べてみたところ、それがたまたまヴェネチアだった ― ただそれだけのことである。
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